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次世代の高音質デバイス「MEMSドライバー」はどこがすごいのか? そのメリットをわかりやすく解説!

ダイナミック、BAに次ぐ、第3の選択肢

佐々木 喜洋
2025年7月28日更新
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    佐々木 喜洋

イヤホンにはダイナミック型あるいはバランスド・アーマチュア型ドライバーが使われることが多いのですが、いま「MEMSドライバー」を採用しようとする動きが増えています。なぜ、このデバイスが革新的なのか、MEMSドライバーを追い続けてきた佐々木喜洋氏が解説します。

これまでのドライバーとは一線を画す新たなデバイス

反応が正確で速く、左右のマッチングも優れる最近「MEMSドライバー」が話題です。「MEMSドライバー」は「シリコンドライバー」ともいえる新しいタイプのドライバーです。つまりICのようなチップがイヤホンの音を出しています。なぜチップが音を出せるのかと奇異に思う人も多いかもしれませんが、それはチップの一部が可動して空気を振動させているからです。

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術とは、チップ上のメカニカルなデバイスやシステムのことを指します。MEMSは通常のICのようにシリコンのダイから切り出すことで製造される点がそもそも通常のドライバーとはまったく異なります。

一方でMEMS技術は既にスマートフォンの多くに「MEMSマイク」という形で普及している実証済技術でもあります。「MEMSドライバー」とはそのスピーカー版「MEMSスピーカー」技術を応用したものです。「MEMSスピーカー」はチップに高い電圧をかけることで、その一部を動かして空気を動かして音を出すことができます。そのため、発音体としての形式は圧電型(ピエゾ)となります。つまりピエゾドライバーの特徴も有しますが、MEMSはダイから切り出されるチップそのものであり、それ自体が従来のドライバーと差別化できる特徴となります。

  • Noble Audioのノイズキャンセリング完全ワイヤレスイヤホン「FALCON MAX」に搭載されたMEMSドライバー「Cowell」。xMEMS Labが手がけたもので、優れた音響特性を誇ります。
  • MEMSドライバーで大きな注目を集めているのが、供給元のxMEMS Labsです。同社は2018年に設立された米国カリフォルニア州の新興企業で、2020年7月に世界で初めてMEMSドライバーを開発したことで知られています。
  • MEMSドライバーはピエゾドライバーの一種で、圧電素子によって空気振動を起こす仕組みです。ハネの部分を電圧によってパタパタと非常に正確かつ高速に動作させて発音するため、歪みが少なく応答性に優れており、たとえば高域表現の向上が期待できます。

製造誤差が少ないから「空間再現」に優れる

たとえば従来型ドライバーのようにパーツから組み立てるものではないので、製造誤差のばらつきがありません。このため左右の特性のマッチングが極めて優れています。そして軽量であり、高域での歪みを減らすことが可能となります。反応速度も高く正確な動きができるので、遅延が少なく音に余計な着色感がつきにくいです。従来型ドライバーよりも超小型で薄いのが特長です。つまりイヤホンを小型化でき、電力消費が少なくて済むというメリットもあるのです。

  • 半導体技術を応用して、シリコンウエハーから切り出して製造するため、振動板とコイルを組み合わせる作業などが不要で、ドライバーとして製造誤差が少ないです。だから左右のマッチングが合いやすく、位相特性に優れ、より明瞭な空間再現につながります。

反面で高電圧が必要ですが、xMEMS社では「APTOS」というイヤホンに内蔵できる小型の昇圧アンプを提供しています。また能率が低いため、ANCを前提とする場合にはフルレンジの採用がしにくいという難点があります。そのため当面は完全ワイヤレスにおいてはハイブリッド形式が主流となるでしょう。一方で有線イヤホンの場合にはその限りではないので、有線タイプでは高性能イヤホンに搭載されることも進むと考えられます。

「MEMSドライバー」はこれから主流のひとつとなり得る技術なので、高音質を求める方にはぜひ知っておいてほしいトピックです。
主な特徴は簡単に表にまとめたのでそちらを参照していただきたいです。もちろんこれはわかりやすくするためにまとめたもので、実際の製品によっては異なることもあることに注意してください。

  • MEMSドライバーとバランスド・アーマチュア(BA)型ドライバー、ダイナミック型ドライバーの特徴を比較した表。