PRIMO(プリモ)から約40年ぶりに復刻したオープンエアー型ヘッドホン「CD-3」。ヴィンテージヘッドホンのコレクターだけでなく、若年層のユーザーからもレトロなデザインと、見た目から想像できない高音質で話題となっています。そこで、プリモのモノづくりの現場に潜入。プロダクトと開発者にスポットを当てました。
- オープンエアー・ダイナミック型ヘッドホン
PRIMO
「CD-3」
¥OPEN(直販サイト価格¥9,680/税込)
音の入り口から出口まで。ドライバーも自社製造できる
日本生まれのPRIMO(プリモ)は1952年「武蔵野音響研究所」として創業した、70年以上の歴史を誇る老舗オーディオブランドです。ブランド名はラテン語「プリマドンナ」に由来しており、音響技術をいちはやく磨きあげてナンバーワンを目指すという姿勢は、会社のDNAとして受け継がれています。
プリモは現在も、東京・西多摩郡瑞穂町を拠点に「音に関する問題解決のプロ集団」として、音響部品の企画・開発・設計・製造・販売をすべて手がけています。あのブランドの、あのオーディオ製品が、実はプリモで製造されている、ということは少なくありません。
プリモがもっとも得意とするのは、マイクです。電気音響変換装置について、素子の内部構造や組み立てに関する特許も、数多く取得しています。昨今も通信機器やヘッドホン・ヘッドセットに内蔵される小型ECMや自動車に内蔵される超小型MEMSマイクをODM生産しており、さまざまなメーカーに採用されています。プリモのブランドで手がけるコンシューマ向けアイテムとしても「酔っ払って落としても叩いても壊れにくい」と評判になったカラオケ用途のダイナミック型マイク「UD310」は、現行品として50年も続いているベストセラーです。ヘッドホンファンの皆さんも、日々の暮らしのなかで、知らないうちにプリモの製品に触れていた可能性は高いでしょう。
- プリモの歴史は古く、そのはじまりは、1952年、代田市藏氏によって創業された「武蔵野音響研究所」に遡ります。設立当初はレコードプレーヤーの部品を主力商品としていましたが、徐々にマイクの製造に主軸を移していきます。1970年代にはカラオケブームに乗じてカラオケ専用のマイク「UD310」を製造。カラオケ業界においてプリモは圧倒的な支持を集めました。
- 1983年にはオープンエアー・ダイナミック型ヘッドホン「CD-1」「CD-2」を、1985年には「CD-3」を発売。さらにはダイナミック型イヤホン「CD-5」や「CD-7」も発売しました。そして、CD-3の発売から時は巡り、38年後、CD-3が復刻されることになりました。
しかし、これからは、みなさんがプリモを積極的に選ぶ時代に入るかもしれません。そう、ヴィンテージヘッドホンのコレクターにも愛されてきた、かつて80年代にヒットした名作ヘッドホン「CD-3」の復刻プロジェクトがスタートしたからです。
シュアやゼンハイザー、ベイヤーダイナミックなど、多くの伝説的なヘッドホンブランドと同じように、音の入り口であるマイクを自社で設計・製造できるということは、音の出口であるヘッドホンを作ることもできます。実際にプリモは、ウォークマンやCDの登場に合わせて、70年代後半からヘッドホンを自社で製造・販売しています。そう、プリモは日本国内でヘッドホンをドライバーから製造できる、数少ないジャパニーズブランドのひとつなのです。
- プリモは東京都西多摩郡瑞穂町に本社を構えています。ちなみに3代目の社長として代田大輔氏が就任後、ロゴマークを社屋に掲げられているデザイン(写真)に刷新。どんな会社なのか、より外に向けて広く発信していくために、iの文字を、マイクを連想させるデザインに変更させています。
プリモの実力を広めるために復刻プロジェクトが始動!
では、なぜ「CD-3」を復刻させることになったのでしょうか?
「ブランド70周年を迎えるにあたって、もっとプリモの認知を高めるためにどうしたらよいか、社内で議論するなかで、ユーザーとの接点を築くなら、マイクだけでなくヘッドホンも販売してみてはどうか?という声が上がったんです」と、プリモの堀内氏は振り返ります。
しかし、ゼロからつくるのはコストがかかります。とはいえ、極端に高価なものにはしたくありません。プリモを若年層に知ってもらうキッカケにしたいから、高音質であるだけでなく、手に取りやすい価格帯のヘッドホンを送り出したい。
そこで音質やデザインに社内で定評があり、図面や金型が当時のまま残っていたCD-3に白羽の矢が立ったといいます。昭和レトロを感じさせるルックスもまた、いまならファッションアイテムとして受けそうで、トータルの部品点数も比較的少なく、コスパに優れたヘッドホンが復刻できそうだという見通しが立ち、プロジェクトがスタートしました。
もちろん、コンセプトは当時のままですが、新装版CD-3は、細部まで全く変わらず復刻されているわけではありません。それは、品質管理の基準が40年前よりも厳しくなっているからです。たとえば、振動板にコイルをセットする接着剤は、現在の環境基準に照らし合わせて、新しく選び直して、改めて最終の音質調整が施されています。他にもアーム部とイヤーカップをつなぐ可動部は、金型を改良するなど工夫をして、強度を高めています。また、この価格帯の製品としては珍しく、左右のドライバー特性を厳密に測定してペアを揃えるなど、丁寧に製造されているといいます。
- CD-3を現代に復刻するのにあたり、ドライバーから製造しています(7)。当時の担当者はすでに退社していましたが、プリモには昭和60年当時の手書きの図面(8)や、量産のための金型(9)が大切に保存されていました。
- 自社にはいまもなお振動板やコイルの製造設備(10、11)や、手作業でドライバーを製造できる職人を多く抱えており(12)、数々の課題をクリアしながら、スピーディーにプロジェクトを進めることができたそうです。
そして外観やパッケージもこだわりました。かつて「デジホン」という愛称が本体にも記されていましたが、シンプルにわかりやすく、ロゴと型番、オープンエアー型ヘッドホンという表記だけに変えています。パッケージは、イラストを前面に押し出しました。さらに2023年からは人気モデル、生見愛瑠をイメージキャラクターに採用するなど、積極的なプロモーションも展開しています。このような創意工夫が実って、新装版CD-3はプリモの顔として、現在もヒットを続けています。
見た目からは想像できないグルーブ感のある低音域
さて、では実際のヘッドホンの音質はというと、オープンエアー型ながら適度な低域感が得られる、音楽をノリよく聴ける、絶妙なチューニングとなっています。中高域の抜けのよさはそのままに、重低音のビートもきちんと重みを持って伝わってきます。見た目とちょっとギャップがあって、驚かされるでしょう。当時、シティ・ポップの「グルーブ感」の再現を目指したといいますが、なるほど頷けるキャラクターです。100gを切る、コンパクトで軽快なスタイルですが、ドライバー口径は大きめサイズの39.5mm。心臓部となるパーツは当時のままで、振動板にはコーティングなしのポリプロピレン、マグネットには1テスラの磁束密度を誇るサマリウムコバルトを採用しています。家のなかでの音楽鑑賞はもちろん、気軽に散歩にも連れて行きたくなるようなヘッドホンです。レトロなデザインが好まれる時代のムードともマッチしそうです。
最後に、プリモのみなさんに今後の「野望」についても聞いてみました。
「ここまでの反響は予想していなかったので、とても手応えを感じています。プリモというブランドが、新しい人たちにも届いたし、かつてのファンとも改めて繋がることができました。また、プリモが面白いことやっているなあ、と思ってもらえる企画を準備中ですので、ぜひ今後も期待してください」と堀内氏。
本サイトの姉妹誌「プレミアムヘッドホンガイドマガジン」で連載を執筆中の「にゅま」さんも「神格化している」と教えてくれたヴィンテージヘッドホン「CD-2」や、ジャズ/クラシックに最適化された「CH-20J」や「CH-20C」など、CD-3以外の過去の名機も、当時の手書き図面が残っているそうで、今後の復刻も勝手に期待したいです!
SPEC
PRIMO「CD-3」
●型式:オープンエアー・ダイナミック型 ●ドライバー口径:39.5mm ●再生周波数帯域:10〜20,000Hz ●感度:103dB SPL/mW ●インピーダンス:35Ω ●ケーブルの長さ:0.8m ●質量:約88g ●付属品:収納ポーチ