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インタビュー

過去の名機「CD-3」を見事に復刻! 日本メーカーPRIMO(プリモ)のヘッドホンづくりの現場に潜入

現代に蘇ったヴィンテージ

平野 勇樹
2025年7月28日更新
  • 平野 勇樹

PRIMO(プリモ)から約40年ぶりに復刻したオープンエアー型ヘッドホン「CD-3」。ヴィンテージヘッドホンのコレクターだけでなく、若年層のユーザーからもレトロなデザインと、見た目から想像できない高音質で話題となっています。そこで、プリモのモノづくりの現場に潜入。プロダクトと開発者にスポットを当てました。

  • オープンエアー・ダイナミック型ヘッドホン
    PRIMO
    「CD-3」
    ¥OPEN(直販サイト価格¥9,680/税込)

音の入り口から出口まで。ドライバーも自社製造できる

日本生まれのPRIMO(プリモ)は1952年「武蔵野音響研究所」として創業した、70年以上の歴史を誇る老舗オーディオブランドです。ブランド名はラテン語「プリマドンナ」に由来しており、音響技術をいちはやく磨きあげてナンバーワンを目指すという姿勢は、会社のDNAとして受け継がれています。

プリモは現在も、東京・西多摩郡瑞穂町を拠点に「音に関する問題解決のプロ集団」として、音響部品の企画・開発・設計・製造・販売をすべて手がけています。あのブランドの、あのオーディオ製品が、実はプリモで製造されている、ということは少なくありません。

プリモがもっとも得意とするのは、マイクです。電気音響変換装置について、素子の内部構造や組み立てに関する特許も、数多く取得しています。昨今も通信機器やヘッドホン・ヘッドセットに内蔵される小型ECMや自動車に内蔵される超小型MEMSマイクをODM生産しており、さまざまなメーカーに採用されています。プリモのブランドで手がけるコンシューマ向けアイテムとしても「酔っ払って落としても叩いても壊れにくい」と評判になったカラオケ用途のダイナミック型マイク「UD310」は、現行品として50年も続いているベストセラーです。ヘッドホンファンの皆さんも、日々の暮らしのなかで、知らないうちにプリモの製品に触れていた可能性は高いでしょう。

  • CD-3のプロジェクトに関わった、プリモ株式会社の皆さん。左から製造課の原田賢氏と渡邉紀之氏、技術課の山下拓己氏、営業課の堀内秀士郎氏、広報課の藤田義人氏と大久保めい氏。
  • プリモの歴史は古く、そのはじまりは、1952年、代田市藏氏によって創業された「武蔵野音響研究所」に遡ります。設立当初はレコードプレーヤーの部品を主力商品としていましたが、徐々にマイクの製造に主軸を移していきます。1970年代にはカラオケブームに乗じてカラオケ専用のマイク「UD310」を製造。カラオケ業界においてプリモは圧倒的な支持を集めました。
  • 1983年にはオープンエアー・ダイナミック型ヘッドホン「CD-1」「CD-2」を、1985年には「CD-3」を発売。さらにはダイナミック型イヤホン「CD-5」や「CD-7」も発売しました。そして、CD-3の発売から時は巡り、38年後、CD-3が復刻されることになりました。
  • プリモで実際に生産されているECMマイク、MEMSマイク素子。

しかし、これからは、みなさんがプリモを積極的に選ぶ時代に入るかもしれません。そう、ヴィンテージヘッドホンのコレクターにも愛されてきた、かつて80年代にヒットした名作ヘッドホン「CD-3」の復刻プロジェクトがスタートしたからです。

シュアやゼンハイザー、ベイヤーダイナミックなど、多くの伝説的なヘッドホンブランドと同じように、音の入り口であるマイクを自社で設計・製造できるということは、音の出口であるヘッドホンを作ることもできます。実際にプリモは、ウォークマンやCDの登場に合わせて、70年代後半からヘッドホンを自社で製造・販売しています。そう、プリモは日本国内でヘッドホンをドライバーから製造できる、数少ないジャパニーズブランドのひとつなのです。

  • プリモは東京都西多摩郡瑞穂町に本社を構えています。ちなみに3代目の社長として代田大輔氏が就任後、ロゴマークを社屋に掲げられているデザイン(写真)に刷新。どんな会社なのか、より外に向けて広く発信していくために、iの文字を、マイクを連想させるデザインに変更させています。
  • 無響室も完備。外部からの音を遮断し、音がほとんど反響せず、音の源から発生する音波が壁などに反射しないため、正確な音響測定を行うことができます。
  • 本社には工場・設備が併設されており、製品開発のためのスタジオ(1)やクリーンルーム(2)、3Dプリンター(3)、マイクロスコープ(4)などを備えています。
  • 品質管理/耐久性チェックに用いる高周波ノイズ測定設備(5)や恒音槽(6)なども備えており、音響部品やオーディオ製品の評価・分析から生産まで、ワンストップで請け負うことができます。

プリモの実力を広めるために復刻プロジェクトが始動!

では、なぜ「CD-3」を復刻させることになったのでしょうか?
「ブランド70周年を迎えるにあたって、もっとプリモの認知を高めるためにどうしたらよいか、社内で議論するなかで、ユーザーとの接点を築くなら、マイクだけでなくヘッドホンも販売してみてはどうか?という声が上がったんです」と、プリモの堀内氏は振り返ります。

しかし、ゼロからつくるのはコストがかかります。とはいえ、極端に高価なものにはしたくありません。プリモを若年層に知ってもらうキッカケにしたいから、高音質であるだけでなく、手に取りやすい価格帯のヘッドホンを送り出したい。

そこで音質やデザインに社内で定評があり、図面や金型が当時のまま残っていたCD-3に白羽の矢が立ったといいます。昭和レトロを感じさせるルックスもまた、いまならファッションアイテムとして受けそうで、トータルの部品点数も比較的少なく、コスパに優れたヘッドホンが復刻できそうだという見通しが立ち、プロジェクトがスタートしました。

もちろん、コンセプトは当時のままですが、新装版CD-3は、細部まで全く変わらず復刻されているわけではありません。それは、品質管理の基準が40年前よりも厳しくなっているからです。たとえば、振動板にコイルをセットする接着剤は、現在の環境基準に照らし合わせて、新しく選び直して、改めて最終の音質調整が施されています。他にもアーム部とイヤーカップをつなぐ可動部は、金型を改良するなど工夫をして、強度を高めています。また、この価格帯の製品としては珍しく、左右のドライバー特性を厳密に測定してペアを揃えるなど、丁寧に製造されているといいます。

  • オープンエアー型ヘッドホン「CD-3」は、約40年前の製品(左)。それを現代に復刻しています(右)。
  • CD-3を現代に復刻するのにあたり、ドライバーから製造しています(7)。当時の担当者はすでに退社していましたが、プリモには昭和60年当時の手書きの図面(8)や、量産のための金型(9)が大切に保存されていました。
  • 自社にはいまもなお振動板やコイルの製造設備(10、11)や、手作業でドライバーを製造できる職人を多く抱えており(12)、数々の課題をクリアしながら、スピーディーにプロジェクトを進めることができたそうです。

そして外観やパッケージもこだわりました。かつて「デジホン」という愛称が本体にも記されていましたが、シンプルにわかりやすく、ロゴと型番、オープンエアー型ヘッドホンという表記だけに変えています。パッケージは、イラストを前面に押し出しました。さらに2023年からは人気モデル、生見愛瑠をイメージキャラクターに採用するなど、積極的なプロモーションも展開しています。このような創意工夫が実って、新装版CD-3はプリモの顔として、現在もヒットを続けています。

  • 若い方にブランドを知ってほしい、という理由から、大胆にイラストをあしらったパッケージやポーチを採用。
  • 対象ショップでCD-3を購入したユーザーには、人気モデルの生見愛瑠さんとコラボしたブックレットを数量限定でプレゼントするなど、若年層に対し、積極的なプロモーションを行っていました。

見た目からは想像できないグルーブ感のある低音域

さて、では実際のヘッドホンの音質はというと、オープンエアー型ながら適度な低域感が得られる、音楽をノリよく聴ける、絶妙なチューニングとなっています。中高域の抜けのよさはそのままに、重低音のビートもきちんと重みを持って伝わってきます。見た目とちょっとギャップがあって、驚かされるでしょう。当時、シティ・ポップの「グルーブ感」の再現を目指したといいますが、なるほど頷けるキャラクターです。100gを切る、コンパクトで軽快なスタイルですが、ドライバー口径は大きめサイズの39.5mm。心臓部となるパーツは当時のままで、振動板にはコーティングなしのポリプロピレン、マグネットには1テスラの磁束密度を誇るサマリウムコバルトを採用しています。家のなかでの音楽鑑賞はもちろん、気軽に散歩にも連れて行きたくなるようなヘッドホンです。レトロなデザインが好まれる時代のムードともマッチしそうです。

最後に、プリモのみなさんに今後の「野望」についても聞いてみました。
「ここまでの反響は予想していなかったので、とても手応えを感じています。プリモというブランドが、新しい人たちにも届いたし、かつてのファンとも改めて繋がることができました。また、プリモが面白いことやっているなあ、と思ってもらえる企画を準備中ですので、ぜひ今後も期待してください」と堀内氏。

本サイトの姉妹誌「プレミアムヘッドホンガイドマガジン」で連載を執筆中の「にゅま」さんも「神格化している」と教えてくれたヴィンテージヘッドホン「CD-2」や、ジャズ/クラシックに最適化された「CH-20J」や「CH-20C」など、CD-3以外の過去の名機も、当時の手書き図面が残っているそうで、今後の復刻も勝手に期待したいです!

  • イベントでは、ケーブルを着脱できるようにしてバランス化したCD-3の試作品を展示。2024年4月にはバランス接続&リケーブル仕様へと進化させるためのクラウドファンディングが行われました。

SPEC

PRIMO「CD-3」
●型式:オープンエアー・ダイナミック型 ●ドライバー口径:39.5mm ●再生周波数帯域:10〜20,000Hz ●感度:103dB SPL/mW ●インピーダンス:35Ω ●ケーブルの長さ:0.8m ●質量:約88g ●付属品:収納ポーチ