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製品レビュー

SE846の画像

長く使い続けられる”十年名機”。いま改めて知るシュアの旗艦イヤホン「SE846(第2世代)」の魅力

「エクステンド」ノズルインサートを採用

高橋 敦
2026年4月6日更新
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    高橋 敦

プレミアムイヤホンの頂点に君臨し続ける伝説的名機、シュア「SE846」。2022年には初代機から第2世代へと進化を遂げました。ブランド創立100年を超えた老舗ブランドが誇るフラグシップ「SE846」の恐るべきポテンシャルと、ノズルインサート「エクステンド」ならではの音の魅力に、高橋敦氏が迫ります。

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  • バランスド・アーマチュア型イヤホン
    SHURE
    「SE846(第2世代)」
    ¥OPEN(公式ストア価格¥135,986/税込)

揺るぎない価値を持つ「SE846」らしい進化

2013年に発売されて以来、名機として君臨し続けてきたシュア「SEシリーズ」のトップエンド「SE846」が、2022年に第2世代へとアップデートされました。高い完成度を誇るSE846本体に、余計な手を加えることなく、昨今の状況やニーズに対応したといいます。このアップデートによって、2013年の発売から今日までシリーズ最上位であり続けたSE846が、これからもそうあり続けることになったわけです。この揺るぎなさ。まさにSE846こそ、名機中の名機といえるでしょう。

  • SE846 第一世代の画像
  • 2013年に発売された当時のフラグシップイヤホン、SHURE「SE846(第1世代)」。バランスド・アーマチュア(BA)型ドライバーは全部で4基。高域用、中域用に1基ずつ、低域用にはダブルで搭載した3ウェイ4スピーカー構成です。

時代が進めば、音楽トレンドもリスナーの好みも変化し、求められるサウンドも変わります。いかに本質的にポテンシャルや完成度に優れるイヤホンも、時を経れば、チューニングという一点においては、時代のニーズとの間にズレが生じることは避けられません。

しかし、SE846は音楽トレンドの変化に応えられる機構を持っていました。「ノズルインサート」交換によるチューニング変更です。時代を超えて通用する高性能と、時代の変化に対応できるシステム。両方を備えているからこそ、そのままの姿で第2世代への進化が実現したのです。長年のSE846ユーザーである筆者としても誇らしく、感慨深いものがあります。シュアの開発陣が口にする「壊れていないものは直すな」精神にぴたりと沿った形での進化となったことにも頷かされます。

SE846(第2世代)と第1世代の最大の違いは、ノズルインサートに、従来のウォーム/バランス/ブライトに加え、「エクステンド」が付属されたことです。従来のバランスに代わり、出荷時に標準装着されています。ほかにも、本体色に定番の「クリア」に加えて、新色「ジェイドグリーン」と「グラファイトシルバー」を追加。付属ケーブルはシンプルなストレートタイプに回帰し、付属イヤーチップのサイズ追加もなされるなど、さまざまな変更点があります。

このレビューではSE846のポテンシャルを再確認した上で、第2世代ならではの変更点、新ノズルインサート「エクステンド」のサウンド傾向についてじっくり紹介していきます。

  • シュア「SE846」は、ノズル部分を外して、アコースティックフィルターが内蔵された「インサート」と呼ばれる筒状のパーツ部分を交換することで、細やかな音質調整ができる機構を備えています。第2世代では、新たにレッドの筒「エクステンド」が追加されました。ちなみに計4種のインサートが同梱されていて、ブルーの筒が「バランス」、ブラックの筒
    が「ウォーム」、ホワイトの筒が「ブライト」です。
  • デザインと付属品を一部変更
  • 写真は第2世代に新たに加わった「ジェイドグリーン」。イヤホンの裏側はクリアになっていて、精巧に設計されたローパスフィルターと4つのBA型ドライバーがぎっしりと詰め込まれている様子が目で見てわかる構造です。ビルドクオリティの高さゆえに成立するデザインです。ちなみに従来モデル同様に、MMCXコネクターを採用しており、ケーブルの着脱が可能です。イヤーチップには新たにXSサイズの弾丸型フォームタイプが追加されました。

いま改めて振り返るシュア独自の音響構造

まずはSE846の概要について、改めておさらいしておきましょう。BAマルチの3WAY4ドライバー構成で、4基のドライバーは低域2基/中域1基/高域1基に割り当てられています。ドライバーの数は、現在においては平凡とさえいえます。しかし現在においても、シュアのラインアップにこれを超えるドライバー数のイヤホンは存在しません。これを超えるドライバー数に大きなメリットはないというのが、シュアの考えということです。そして彼らが自信を持って「数はこれで十分」といい切る背景には、そのドライバー構成から最大のポテンシャルを引き出す技術があります。独特のアコースティック構造による「ローパスフィルター」です。

マルチウェイ構成では、低域/中域/高域の各帯域を担当するドライバーが他の帯域の音も鳴らしてしまうと、複数ドライバーからの音が重なるその部分での干渉が、音の濁りや不正確さを生み出してしまいます。そこで一般的には、音声信号を各ドライバーに渡す手前に電気的なフィルター回路を置き、担当帯域の信号のみを抽出してドライバーに渡す仕組みが用いられています。

ここで難しいのが低音の扱いです。低音信号だけを通して低域用ドライバーに渡すローパスフィルター回路の性能を高めるには、大きめサイズの電子パーツを使う必要があるのです。しかし、それを搭載すれば当然、イヤホン全体のサイズも大型化し、装着性などの面においてのマイナス要因となります。

そこでシュアが生み出したのが、電気的な仕組みではなくアコースティック、すなわち音響的な構造によって低域を抽出するローパスフィルターというわけです。ドライバーに渡す信号に手を加えるのではなく、ドライバーから放出された音に対して働き、その中高域を大きく減衰させることで、中域/高域担当ドライバーとの音の被りをなくすといいます。原理としては単純です。「音は細い管を通過するとき高域側から減衰していく」ことを利用。細い道が刻まれた薄い金属プレート10枚を貼り合わせて、内部に計10cm強ほどの音響経路を持つ、小さく精密な構造体を作成。その経路を通過させることで、低域ドライバーから放出された音の中高域を十分かつ自然に減衰させています。

  • 第1世代のSE846に搭載されていたローパスフィルターの分解図。ステンレスプレートに複雑なパターンの溝を掘ることで、構造的な強度を保っています。ベースやドラムの音が被さって、ボーカルなどが潰れてしまわないように、より速く低域がロールオフするように、この機構が設けられていました。

そのローパスフィルターが低域側を担当するのに対して、音の最終的な出口であるノズルの内部には、高域の調整を担うアコースティックフィルターが仕込まれています。ノズルから鼓膜に向けて放出される直前の音に対して働き、高域を適切に減衰させ整えるのがその役割です。この「適切に減衰させ整える」ことこそ「チューニング」であり、それを行う音響フィルターを交換可能としたのが「ノズルインサート機構」というわけです。

  • SE846のドライバー構造図
  • 第1世代から変わらず、3WAY4ドライバー(高域用1基、中域用1基、低域用2基)構成。10枚の精密に溶接されたステンレスプレートで形成されたローパスフィルターによって、サブウーファーでしか再現できないような75Hz付近からのベース帯域を歪みや音色の変化なく自然にロールオフさせる仕組みをもち、豊かで良質な低音が味わえるのは、いまも変わらず本機ならではの特長です。

時代のニーズに応えるサウンド。絶妙な味付けの「エクステンド」

それでは音質チェックをはじめましょう。まずは「バランス」を装着して、従来の基本的なサウンド傾向を確認してみました。手短に表現するなら「ハイレベルにナチュラル」です。言葉としては「ニュートラル」と表現した方がわかりやすいかもしれません。特に好ましいのはボーカルの描写です。多くのポップミュージックにおいて主役である、歌声の感触の自然さ、耳馴染みのよさは、シュア製品全般の持ち味です。また、超低域の空気感と、低域から中域にかけての明瞭度も特長です。後者にはおそらく、前述のローパスフィルターの活躍が大きいのでしょう。

このような優秀さ、好ましさを前提とした上で、強いて弱点や不満点を挙げるとすれば、弱みは強みの裏返しというべきか、こちらも「ナチュラルさ」かもしれません。楽器のアタックがナチュラル傾向になるが故に、たとえばドラムのドライで強烈な抜け感がいまひとつバシッと決まらなくなります。また「楽曲のアグレッシブさを引き出し切れない」と感じることもあります。YOASOBIの楽曲では、サウンドのキラキラ感と歌の切迫感などはやや薄れてしまい、ちょっとした物足りなさは否めません。このあたりは単純に好みの違いですが、これこそ「時代の流れによる音楽トレンドの変化」でもあります。

  • BALANCEの音質傾向
  • 初期出荷時に装着されているノズルインサート「バランス」を高橋氏が試した際の音質インプレッション。

では、第2世代で追加されたノズルインサート「エクステンド」はどうでしょうか?筆者所有のSE846はバランスに固定して、SE846(第2世代)側のノズルインサートをエクステンドとし、随時比較しながらテストしました。また、サウンドの差分を捉えやすくするため、プレーヤーはアステル&ケルン「KANN MAX」のシングルエンド駆動で再生、イヤーチップにはシリコンタイプを用いました。別掲にノズルインサート4つそれぞれの特長をまとめているので、併せて確認しながら読み進めていただきたいです。

エクステンドの音作りは、おおよそ「バランスとブライトの中間」というポジショニング。まさにそれを求めていた!というSE846既存ユーザーも多いのではないでしょうか。

しかし、単純に中間というわけではありません。データを見ても、同じ周波数範囲のままdB数のみ上げるのではなく、周波数範囲も変えられていることがわかります。具体的にはバランスを基準に、5kHz付近と10kHz以上を上げているとのこと。編集部で実測したデータでも「ブライトやバランスと比べて、高域のピークやディップ(凹凸)が整えられ、より滑らかな周波数カーブ」という違いも見られたといいます。既存の3タイプとは一線を画すチューニングのようです。

  • エクステンドの音質傾向
  • 第2世代で新たに追加されたノズルインサート「エクステンド」を高橋氏が試した際のインプレッション。

ナチュラルさを保ちつつ輝きや抜け感をアップ

比較試聴した印象は、「ブライトの明るさとバランスのナチュラルさを絶妙に両立した音」です。筆者自身が悩まされていた「バランスのままだと高域が少し甘いが、ブライトにするとあの心地よいナチュラルさが損なわれてしまう…」という点を、すっきり解決してくれる一手!

ただ、実際ブライトを用いた際のナチュラルさの損失は微細で、さほど気にならないことも多いです。しかし筆者の場合はギターの整備や演奏が趣味なこともあって、その音色の変化が特に気になってしまいます。なので、たとえばジミ・ヘンドリックス「Little Wing」を、ブライトを用いて再生すると、あの絶品のクリーントーンのアタックや芯が硬く、強まりすぎるように感じていました。エクステンドでは、そこを絶妙に再現してくれます。音色が硬くなりすぎたり、違和感はほとんど感じられず、ナチュラルさをキープ。それでいて音の輝きや抜けは高まっています。視覚的に表現するならば、ブライトが「ステージの照明がグイッと強められ、歌い手の姿はクッキリと、シンバルはその光をギラリと反射」するのに対し、エクステンドは「ステージの照明が適度に強められ、歌い手の姿はより明瞭に、シンバルはその光をきらりと反射」するよう。微細ながらも大きな違いがある。またはギター的に表現するなら、「ブライトの高域の出方にはイコライジング感があるが、エクステンドで得られるのは、弦を新品に張り替えたときのように自然な輝きや抜け」といった印象です。
 
なお、これはあくまで筆者の場合。ですが同じように「この楽器の変化にだけは敏感」といったポイントがあるオーディオ&音楽ファンもいるはずです。ノズルインサートを聴き比べて選択する際には、そうした自分ならではのポイントを意識して確かめるとわかりやすいでしょう。 

個人的には総じて、「エクステンドがよすぎる!」というのが正直な感想です。ただ、エクステンドがあれば十分ということではありません。ユーザーによるチューニングはさまざまな要素の組み合わせであり、各要素の兼ね合い次第となるからです。

たとえば、リケーブルやイヤーチップを、音質よりも使い勝手や快適性を重視して選んだ場合、音の傾向が意図せずソフトになってしまうこともあるでしょう。そんな時は、ノズルインサートをブライトにすると、全体をニュートラルに持っていけるかもしれません。音質だけを考えて柔軟に選択できるのがノズルインサートの強み、だからこそチューニングの最後のまとめに大活躍してくれます。

  • ノズルインサート「ブライト」を高橋氏が試した際のインプレッション。
  • ウォームのインプレッション
  • ノズルインサート「ウォーム」を高橋氏が試した際のインプレッション。

今後もしばらく揺るがないレファレンスとしての地位

SE846(第2世代)をじっくりとチェックしてみて、改めて驚かされたのは、当初から備えていたポテンシャル、新ノズルインサートによって新たに引き出された魅力、その両方です。筆者は第1世代の発売当時から今日まで、SE846をBAマルチのレファレンスとしてきましたが、そのポジションは今後もしばらくは揺るがないでしょう。ちなみに筆者所有のSE846は、オーディオライターという仕事柄、さまざまな取材で用いており、一般的なユーザーと比べてケーブル着脱の回数が明らかに多いです。しかし今日までの9年間、着脱を繰り返したMMCXコネクターにも、それ以外のどこにも、何の不調もないのです。こうした長く使い続けられる高い耐久性も、さすがシュアです。

これまでのSE846ユーザーは、その長年使用できる耐久性故に、乗り換えるタイミングが悩ましいかもしれません。ただ、SE846(第2世代)の揺るがない性能、そして新しいノズルインサートの魅力は、それだけの価値があるといえます。もちろん既存ユーザーだけでなく、新たに手に取る方も多いでしょう。SE846(第2世代)の「十年名機」のサウンドを、より多くの方に堪能していただける機会になることを、一人のSE846ファンとしても願っています。

  • SE846の画像
  • 左からクリア、グラファイトシルバー、ジェイドグリーン。

SPEC

SHURE「SE846(第2世代)」
●型式:バランスドアーマチュア型 ●ユニット:3ウェイ4ドライバー(低域×2、中域×1、高域×1) ●再生周波数帯域:15〜20,000Hz ●インピーダンス:9Ω ●感度:114dB ●重量:5.5g(実測値) ●付属品:シリコンイヤーチップ4種(ソフト・フレックス・スリーブ3サイズ、トリプルフランジ1サイズ)、低反発イヤーチップ8種(ソフト・フォーム・スリーブ4サイズ、COMPLY Pシリーズ3サイズ、イエローフォーム1サイズ)、キャリングケース、ケーブル、6.3mm変換アダプター、ノズル交換ツール、交換用ノズルインサート4種