オーディオの楽しみは推しのアーティストを、より好みの音で楽しむところにあり、たとえフラグシップDAPを購入した後でも、その追求は終わることはないでしょう。そんなオーディオの真髄を楽しむなら超弩級のアナログアンプの導入はいかがでしょうか。どんなDAPと組み合わせても、DAPの個性を見事に引き出すLUXURY&PRECISION「EA4」は、マニア心を刺激する逸品です。今回はそんなEA4の使いこなしレポートをお届けします。
CONTENTS
・イントロ「DAPによる音質差を表現できるのか?」
・プロフィール「まるで据え置き機のような真空管アナログアンプ」
・使いこなし「自分好みの音に追い込む調整機能とは?」
・音質チェック1「A&Ultima SP3000×EA4」
・音質チェック2「NW-WM1ZM2×EA4」
・音質チェック3「N7+×EA4」
・音質チェック4「DX340/AMP15×EA4」
・音質チェック5「M17×EA4」
・SPEC
イントロ「DAPによる音質差を表現できるのか?」
一昔前から比較するとDAPの性能は向上しましたが、ことアンプは物量投入の効果が大きいパーツなので、一体型のDAPでは駆動力に限界があるのも事実です。そこで今回はLUXURY&PRECISION(楽彼)ブランド創設10周年を記念した超弩級のポータブルヘッドホンアンプ「EA4」を軸に、新旧様々なフラグシップ級のDAPをかけ合わせ、それぞれのDAPの音がEA4によりどのように変化するのかを試してみました。
まずハイインピーダンスのヘッドホン、ゼンハイザー「HD 800 S」を直接5種類のDAPに繋いだ時とEA4と組み合わせた時の音質変化を確認し、その傾向についてをレビューします。
「EA4」はまるで据え置き機のような真空管アナログアンプ
レビューの前に、EA4の詳細を紹介しましょう。EA4は国産の新型真空管Nutube(6P1)を2本用いた真空管プリアンプと、TO252パッケージのパワートランジスターを8基備えたディスクリート・ヘッドホンアンプから構成されており、真空管プリアンプのみの出力、双方を組み合わせたハイブリッド出力を選択できます。なお真空管プリアンプはディスクリート構成の電源回路からNutubeのアノード(プレート)に高電圧を安定的にかけられるよう設計されているほか、カップリングコンデンサーに12個のパナソニック製フィルムコンデンサーを採用しています。また振動に弱いNutubeへの対策として、CNC加工による金属製デュアルシールドと高減衰シリコンパッドを用意しています。

- 高電圧を供給する 真空管プリ回路
プリアンプには最新世代の真空管Nutube「6P1」を2基搭載しています。アノード部には精密に設計されたディスクリート回路から高電圧を供給する構成を採用しています。また真空管は振動によってマイクロフォニックノイズを発生させてしまいますが、EA4は金属製のデュアル遮断シールドを設置しています。6P1の両側に8つの高減衰シリコンパッドを配置し、振動を抑制しています。
独立した2系統の大出力正負電源によって安定化と帯域特性の向上を行っており、ヘッドホンアンプ部の電源フィルタリングには16個のニチコン製オーディオグレード電解コンデンサーを搭載しています。ヘッドホンアンプは±13V/±15Vの選択も可能です。また11ステップの静的電流レベル調整に対応し、AB級動作/A級動作を段階的に切り替えることも可能です。この他、2段階のゲイン切替や入力レベルが高い場合の減衰機能ILAモード、そしてNutubeのマイクロフォニックノイズを抑制する電気的な手法としてフィラメントに一定の電流を供給するフィラメント定電流モードCC、固定電圧を供給するフィラメント定電圧モードCVも用意しています。各部細やかに動作状況を調整することで、繋いだイヤホン/ヘッドホンだけでなく、DAPとも最適な動作条件を探ることができます。無論、積極的にこれらの機能を活用することで好みの音質に調整でき、ポータブルリスニングの楽しみをさらに深めてくれるものとなるはずです。

- 独立したパワー部。圧倒的な高出力
真空管プリアンプで電圧増幅を行い、後段のパワーアンプ部では電流増幅のみを行うアンプ構成を採用しています。また合計8個の「TO252パッケージ電力トランジスタ」を搭載することで、32Ω時で6800mW、今回取材で使用したゼンハイザー「HD 800 S」のような300Ωのヘッドホンでも1300mWという高出力を実現しています。
使いこなし「自分好みの音に追い込む調整機能とは?」
1,A級動作とAB級動作を可変できる!
アンプには様々な増幅方法がありますが、A級動作はバイアス電流を常にかけることで消費電力が高まったり発熱があったりしますが、そのおかげで0V近辺のゼロクロス歪みを発生させません。そのため駆動力が高くなり、信号処理も忠実な増幅方法となります。一方、B級動作は2つの増幅素子を使いプッシュプル動作させることで、信号を増幅させる方法です。B級は効率がいい反面、歪みが出やすいです。AB級はA級動作とB級動作の間のような増幅ですが、音質面ではA級の方が有利です。EA4では、そのバイアス電流量を11段階と細かく自分で調整ができます。

- 可変レバーを動かせば、A級動作とAB級動作の割合を調整できます。
なおA級動作時は最大50mA、AB級動作時で最大10mAです。たとえばイヤホンのような駆動力を必要としないアイテムなら、AB級から徐々にA級に変化させて消費電力とのいい塩梅を見つけてもいいでしょう。高インピーダンスヘッドホンならA級一択!なんて選択もアリです。
2,DAPの入力を調整できる
EA4はアナログアンプなので、4.4mmか3.5mmのライン入力となります。そのためDAP側はライン出力をするか、モデルによっては最大音量にして接続しますが、その出力電圧はモデルによって様々です。そのためアンプ側では信号を減衰しないと、歪みが出てしまうこともあります。

- 少々聞き慣れないスイッチだが、「ILH」は入力信号を固定。「ILA」は減衰させる。
EA4では入力信号を固定する「ILH」と入力信号を減衰させる「ILA」があります。前段の通りに歪みに対応する面もありつつ、プリアンプの真空管「Nutube」へ供給する入力レベルを下げる(ILAにする)ことで、音楽的なディテール再現を保持するという影響も与えるので、積極的に変えてOKなスイッチです。
3,電流と電圧の量を調整できる
ゲイン設定はHighとLowが選択できるほか、電源供給の電圧を±15Vと±13Vと選択できます。効果としては、高インピーダンスのヘッドホンを組み合わせるときはHighと15Vを組み合わせるといった使い方が一般的です。またCC(定電流)とCV(定電圧)とありますが、これはプリアンプの真空管「Nutube」に入力する電流を一定にするか、電圧を一定にするかのモードです。簡略化していうと真空管の温め方をどちらで行うかという設定で、単純に音質変化を楽しめる要素なので選択できる、というわけです。なお、真空管プリアンプはバイパスできないので、このスイッチも積極的に活用したいところです。

- 「H/L」はゲイン調整。「CC/CV」は定電流モードと定電圧モードの切替。「±15V/±13V」は供給電圧の調整を行います。
次からは、5つの新旧フラグシップDAPと組み合わせた音質レビューをお届けします。
音質チェック1「A&Ultima SP3000×EA4」
落ち着きのあるレファレンス的な表現
Astell&Kern「A&ultima SP3000」は、AKM製セパレートDACソリューションAK4499EX+AK4191EQを世界初搭載しています。バランス/アンバランス回路ごとにAK4191EQを2基、AK4499EXを4基割り当てたHEXAオーディオ回路を搭載しており、出力電圧値を調整できることも特長です。HD 800 SをバランスケーブルでSP3000と直結すると高域は立ち上がりが早く爽やかな描写となりますが、低域は軽いアタック感が中心で、柔らかいタッチで描きます。十分な音量を得るのにボリューム数値は100を超えます。
EA4とのバランス接続では音像の前後感が明確となり分離感も向上します。音像の重心も沈んで厚みが出てきますが、定位感もより正確に表現できるようになります。HD 800 Sとは切れ味鋭いAB級に対し、滑らかで伸びやかなA級動作との相性がよい印象です。適度に明るく自然な厚みを持つ真空管プリアンプモードに対し、力強さと鮮明なタッチで描くハイブリッドモードの方が、キレがありS/N感も高く解像度も高まります。
フィラメントのCVモードはシャープで硬めな描写であり、CCモードの方が有機的で重心も低く滑らかな傾向であり、聴きやすさから後者を選択しました。以降のDAPもこれらの条件で固定しています。DAPの電圧設定は大きいと歪みっぽくなるため、最小の1.4Vを選択しました。EA4との組み合わせでは落ち着きがあり奥行きのあるサウンドを聴かせてくれ、レファレンス的な表現であると感じます。オーケストラの管弦楽器はしなやかで抑揚があり、ボーカルも艷がありウェットで自然な厚みを持っています。
音質チェック2「NW-WM1ZM2×EA4」
空間表現が素直でリアリティある音へ進化
「NW-WM1ZM2」は、今回の試聴では唯一のアナログアンプではない、フルデジタルアンプ「S-Master HX」を積むモデルで、11.2MHz・DSDまでネイティブ再生が可能です。無酸素銅切削ボディをはじめ、ハンダや内部配線までこだわり抜いたハイレゾ・ウォークマンのフラグシップ第二世代機です。HD 800 SのバランスケーブルとWM1ZM2との直結では、高ゲイン設定でもボリューム位置が100前後でないと鳴らない印象です。NW-WM1ZM2の音は、ボーカルは柔らかいテイストですが、音像の芯も弱めに感じます。低域方向に厚みはあるものの階調性が甘く、固まった音像として描き出します。元々ヘッドホン接続時の駆動力に課題がありましたが、HD 800 Sのようなハイインピーダンスモデルは太刀打ちできません。
EA4との接続ではそうした問題が解消され、よくほぐれたスムーズなサウンドが展開します。今回の試聴機の中ではライン固定出力設定を持たず、バランスヘッドホン出力をEA4に繋いでいるため、条件的に不利な面はありますが、そうした問題を感じさせない、滑らかで艶のある爽やかな音を聴かせてくれます。オーケストラは管弦楽器のハーモニーの豊かさ、バランスのよい楽器の描写、見通しのよいサウンドステージを実感します。
低域のどっしりとした響きの豊かさ、楽器にも潤いがあり艶やかな表現も好ましいです。ボーカルはしっとりとして落ち着きがありとても上品です。ボディの厚みと口元のハリ、音像の存在感も安定しており印象に残りました。空間性も素直で、ロックのギターの掻き鳴らす様やキックドラムの動きも自然に捉えます。
音質チェック3「N7+×EA4」
押し出しの強さをさらに強調!
「N7+」は1bitディスクリートDACを採用し、PCM信号もDSD変換再生するN7の強化バージョンとして登場したDAPです。ライン出力のレベル強化やアンプ回路の改良、駆動時間の改善が行われています。HD 800 Sとの直結でも駆動できるパワフルさが持ち味で、ボリューム位置は64程度で十分な音量となりました。AB級動作では高域をスッキリと聴かせつつ、滑らかで密度の濃い音となり、A級動作では倍音のハリを強めに感じさせながらも艶のある丁寧な音を聴かせてくれます。
EA4との接続ではライン出力が大きく、ILAで減衰しました。低域の厚み、音の伸びが増し、より重心が低く安定したサウンドとなります。ボーカルはウェットで肉付きよく、力強さも伴います。DSD音源の艶のあるしっとりとした質感も耳当たりがよく、ローエンドまでゆとりある描写となります。ロックのリズム隊は押し出しが強くパワフルで、オーケストラのハーモニーもゴージャスに響きます。ピアノやシンバルは輝くようなアタックで余韻も華やかです。
音質チェック4「DX340/AMP15×EA4」
制動性が高まるバランス重視の音
「DX340」にはDX300シリーズで受け継がれる、デジタル部・アナログ部を個別のバッテリーで駆動するデュアルバッテリー技術や、8素子PWMディスクリートDACを16セット組み合わせ、1bit変換するディスクリートPWM-DACを搭載しています。着脱可能なアンプモジュールにはオペアンプBF634Aを複数積んだ専用の「AMP15」が用意されます。HD 800 Sとの直結ではボリューム67程度で音量的に聴けるレベルです。ボーカルや弦楽器はクッキリと際立ちクリアに表現しますが、低域方向は太さがある一方、制動性は今一歩です。
EA4との接続では全体的に音が引き締まり、見通しのよいサウンドに変化します。音ヌケもいいです。音場は浅目ですが、オーケストラには適度な厚みと旋律のハリを両立したバランスよい描写となります。ローエンドも引き締まった傾向で、ホーンセクションやピアノの響きが爽快かつ輝くように感じられました。ボーカルの輪郭はクリアに出ており、明瞭度は高いです。
音質チェック5「M17×EA4」
フォーカスが引き締まり爽快な音に
「M17」はESS製DACチップ「ES9038PRO」をデュアル構成で搭載。DC入力を搭載するパワフルDAPです。ヘッドホンアンプはTHX社と共同開発したTHX AAA-788+によって、ハイインピーダンスなヘッドホンでも難なく駆動させられます。HD 800 S直結ではボリューム位置が78程度で音量が丁度よい印象です。低域の制動力も十分あり、リズム隊の厚みも適度に引き出します。声には厚みとハリ感が両立されています。高域の響きも過不足ありませんが、全体的に拡散傾向です。
EA4との接続ではよりフォーカスがよく引き締まった傾向となり、ボーカルも落ち着きがありスマートです。分離感もあります。オーケストラは幾分ドライな質感ではあるものの、管弦楽器は鮮やかに際立ち、余韻も爽やかです。低域パートは弾力がしっかりとあり、躍動的なハーモニーを味わえます。ロックのリズム隊は跳ねるようで密度も高いです。エレキギターやスネアドラムのアタックは硬質で、クリアかつ華やかに響かせます。ピアノのアタックは軽快で、ヌケよく朗らかに表現します。
SPEC
アナログアンプ
LUXURY&PRECISION
EA4
¥OPEN(実勢価格¥501,600前後)
SPEC ●出力:6800mW(32Ω/4.4mm)、1300mW(300Ω/4.4mm) ●S/N比:123dB(H+ILH/4.4mm)、119dB(L+ILH/4.4mm) ●THD+N:0.1%(10Vrms/4.4mm)、0.01%(5Vrms/4.4mm) ●対応ヘッドホンインピーダンス:4〜1000Ω ●入力端子:4.4mmバランス×1、3.5mmアンバランス×1 ●出力端子:4.4mmバランス×1、3.5mmアンバランス×1 ●充電用接続端子:USB Type-C×1 ●再生時間:約8〜18時間(バランス接続時) ●外形寸法:100W×33H×180Dmm ●質量:770g











