オープンイヤースタイルの「ながら聴き」ヘッドホン。なかでも日本発のオリジナル音響技術で異彩を放つnwm(ヌーム)ブランドのフラグシップモデル「nwm ONE」の魅力に迫ります。
高性能ドライバー2基を耳穴近くに配置する新構造
周囲の音が聞こえるオープンな構造なのに、自分のまわりだけに音を閉じ込めることができる、NTTが開発した日本発の音響技術「PSZ(Personalized Sound Zone)」。この技術をコアに、nwmはこれまで、イヤホン形状をした「耳スピ」をいくつもリリースしてきました。そしてブランドとして初挑戦するヘッドホン形状、フラグシップにあたる「耳スピ」が、ここで紹介する「nwm ONE」です。
- オープンイヤー型オーバーヘッド型耳スピーカー
nwm
「nwm ONE」
¥OPEN(実勢価格¥39,600前後)
- 音漏れを抑え、耳もとに音を閉じ込める「Personalized Sound Zone(PSZ)」。ある音の波形に対してプラスとマイナスを反転した波形(逆相)を当てると、波同士が打ち消し合って音が消える原理を応用したテクノロジーです。
NTTソノリティの滝澤氏によれば、イヤホン形状の「耳スピ」のリリースが決まった2年ほど前から、本機の開発はスタートしたそうです。
「イヤホンの時は、周囲の音を聞こえやすくするためにドライバーを耳穴から離す必要があるため低音が減衰しやすく、ドライバーサイズを単純に大きくすると音漏れが増加するという制限がありました。そこで音質を追求したフラグシップという位置づけで、nwm ONEの開発プロジェクトがスタートしました」。
そこでnwm ONEは、新たに低域用の35mmドライバーと中高域用の12mmドライバーのデュアル構成で搭載しています。フリーエッジの振動板はカーボンファイバーで強化されたセルロース素材。しかもそれぞれのドライバーを別々のアンプでパワフルに駆動する方式となっています。ドライバーの位置は、耳穴より上部に配置するのではなく、耳穴のすぐ横に浮かせるような構造に変更。ハウジングを富士山型として、角度調整もできる機構としました。
- 内部構造イラスト。頂点に近い手前側に12mmの中高域用ドライバー、その奥に35mmの低域用ドライバーが内蔵されていて、それらをマルチアンプ駆動しています。ちなみにクロスオーバーは1kHz付近に設定されているそうです。
- 2つのドライバーはどちらもフリーエッジ構造、カーボンファイバーを混合した振動板を採用することで、歪みの少なさと豊かな音色を狙っています。オーディオ的に「ガチ」な仕様であることも、ヘッドホンファンにとっては注目ポイント!
実際に音を聴くと、きっと2度、驚くはずです。まず、オープンなのに、リッチな低音で驚きます。「太鼓の音がちゃんと太鼓に聞こえることを意識した(滝澤氏)」というのも頷ける迫力です。それから、これだけ耳のまわりを開放的にしたのに、周囲への音漏れが驚くほど少ないのです。iPhoneのボリューム設定で半分くらい、カフェのBGMより大きな音量感で音楽を再生してみても職場で隣のスタッフに気づかれないほどです。さすがに電車内で音楽を大音量で楽しむのはちょっと気が引けますが、屋外で散歩のお供に使う分には、音量が足りなく感じたり、周囲への音漏れが気になったりすることもありません。
もちろん低域だけでなく、カナル型イヤホンでは味わえない、「耳スピ」らしい自然で広がりのあるサウンドは健在です。ジャズやクラシックを「ながら聴き」するのも気持ちいいし、街中でライブ音源を聴いたりするのも楽しいです。聞けば、「聴感と物理特性の相関を検証するところから。社内検討用のためだけにツールも開発している」そうで、このあたりはnwm「耳スピ」すべてに共通するサウンドチューニングです。
軽快なスタイリングに最先端の技術を結集
それから注目してほしいのは、とても軽い、ということです。重さはわずか約185g。実はひとつひとつのパーツに薄さと強度を持たせるために、さまざまな工夫が盛り込まれています。グリルなどのメタルパーツはステンレス製。ヘッドバンドやドライバーを支えるアームの部分には、一般的なプラスチック素材ではなく、スーツケースなどに用いられるポリカーボネート素材や、ガラス強化された樹脂を採用するなど、ハイテク素材で構成されたスペシャル仕様になっています。実にさまざまな創意工夫が詰まっているのです。
ちなみに心臓部のSoCは、本機のためだけに新しいチップを採用。DSPはプログラム可能なタイプとなっていて、NTTソノリティが自社でソフトウェアまで開発できる強みが生かされています。アプリの完成度の高さを体験してもらえれば、いかにnwmがハードウェアだけのブランドではないかがよくわかります。
とても通話性能が高いということも、nwm ONEの魅力のひとつです。周囲が騒がしくても自分の声だけをクリアに届けてくれる、NTTならではの特許技術「Magic Focus Voice」が搭載されています。外部への音漏れを打ち消すために、ポートから打ち消すための音を出している都合、マイクの配置によっては、そのノイズを拾ってしまう可能性もあります。何度もシミュレーションや検証をおこない、実装させたといいます。編集スタッフも実際にオフィスや外出先から、オンライン会議で本機を愛用していますが、以前よりも声がクリアに届いている、と社内外での評判も上々です。オーディオ業界で話題になるくらいなのだから、その威力たるや、です。
- 通話品質を高める「Magic Focus Voice」。2つのマイクに音が到達する時間差を利用して話者を特定する「ビームフォーミング」と、ノイズを除去して音声だけ抽出する「スペクトルフィルター」の2つの技術をハイブリッドで処理する技術。
新しいスタイルの「耳スピ」を完成させたnwm。この先はどのような展開を考えているのでしょうか?
「スタジアムや歌舞伎などで、耳スピで実況や解説を聞いてもらう実証実験などを行っています。nwm ONEはBluetoothの新しい機能、Auracastブロードキャストオーディオにも対応しているので、たとえばツアーガイドのような用途でも、耳スピが活用できるはずです。それから2024年10月末に、nwmブランドの直販サイトもオープンしました。今後もどうぞご期待ください」と滝澤氏。
日本発のイノベーションで、音楽のリスニングスタイルに革命を起こしたnwm。その快進撃は、まだまだ続きそうです。まずはこのnwm ONEで、その大きな可能性に触れてみてほしいです。
- さまざまな試作品。「ドライバーを耳穴の近くに配置する構造を持つ、オーディオっぽくない、これまでにないヘッドホンというコンセプトをカタチにするために、外部のデザイナーの方も交えて、さまざまな可能性を検討した(滝澤氏)」といいます。
SPEC
nwm「nwm ONE」
●通信方式:Bluetooth Ver.5.3 ●対応コーデック:SBC、AAC、LC3、CVSD、mSBC ●ドライバー型式:ダイナミック型 ●ドライバー口径:12mm+35mm ●連続再生時間:20時間 ●質量:約185g ●付属品:充電ケーブル