オーディオの進化は、「録音された音をいかに忠実に再現するか」を追求してきた歴史です。けれど、HiFiの基準をクリアするだけでは語り切れない領域が、ハイエンドDAPには存在します。それは「そのモデルでしか味わえないサウンドが聴けるかどうか」。これこそオーディオの醍醐味であり、エジソン以来100年以上オーディオという趣味が続いている理由です。
そして2026年、聴いた瞬間に「うわっ! 何だ、この音は!」と声が出てしまうDAPに出逢ってしまいました。EvoAria(エボアリア)のファーストモデル「EvoOne Ti」と「EvoOne Cu」です。本音をいえば、出逢いたくはありませんでした。なぜなら、これらは100万円を超える価格だからです。

- ポータブルオーディオプレーヤー
EvoAria
EvoOne Ti(左)EvoOne Cu(右)
¥1,122,000(税込)
※Tiは発売済み。Cuは6月末頃発売予定。
その音を一言で表すなら「迫真」。圧倒的に自然で清廉なサウンドは、どこから来たのか──。CEO・Thomas Liang(トーマス・リャン)氏への約25,000字にも及ぶメールインタビューから、EvoOne誕生の背景をひもときます。

- 我々の質問に対して、CEOのトーマス氏はA4用紙で27枚にも及ぶ熱筆で回答してくれました!
CONTENTS
・【ブランド】30年の研鑽を経て、新ブランドを立ち上げた
・【製品コンセプト】なぜ最初から、100万超えのDAPだったのか?
・【プロダクト】TiとCu、同じ思想だが異なる回路
・【調整機能】頂点を知る人のために「好みの音色」を選ばせる
・【岩井氏による音質評価】モニター的に楽しむTi、細部まで調整を楽しむ
・製品プロフィール
【ブランド】30年の研鑽を経て、新ブランドを立ち上げた

- EvoAriaのファウンダーでありCEOのThomas Liang(トーマス・リャン)氏
まずトーマス氏は、約30年にわたりオーディオ業界の最前線に立ち続けてきたエンジニアです。DAPの製品開発のほかにも会社経営者としてのキャリアも持つ人物。プロダクトマネージャーとしてユーザーや代理店、ユーザーの声に耳を傾け続け、技術と現場の間を行き来してきたキャリアの持ち主でもあります。そんなトーマス氏に新ブランドの構想が芽生えたのは2022年頃。
「新しいブランドの立ち上げはある瞬間に決断したのではなく、長年の積み重ねの中で徐々に形を成していきました。蓄積してきた経験と判断を、より純度高く製品に反映させたい──。そう思ったのです」(トーマス氏)。
EvoAriaは5名のコアメンバーで構成された精鋭チームです。外観、構造、回路、ソフトまでを内製できる体制で、目指すのは規模の追求ではなく「音質を唯一の評価軸とするハイエンドブランド」とのことです。
【製品コンセプト】なぜ最初から、100万超えのDAPだったのか?
第一弾EvoOneの価格は100万円超というベンチャー企業としては異例の選択です。
「私たちは即席のチームではありません。ポータブルオーディオが長年抱えてきた限界や妥協点を把握しているからこそ、設計思想と技術力を最も完全な形で具現化できるトップクラスのDAPを出発点に選びました」(トーマス氏)。
約400台という生産数も、限定感の演出ではなく、「完成度に妥協しない前提で、現実的に引き受けられる最大限の数」と、トーマス氏は語ります。すべての一台に責任を持つための判断、というわけです。

- ボリュームノブを見ても妥協なく製品づくりを行っているのがわかります。
【プロダクト】TiとCu、同じ思想だが異なる回路

- TC4チタン合金筐体の「EvoOne Ti」(左)と真鍮筐体の「EvoOne Cu」(右)
EvoOneには、航空グレードのTC4チタン合金筐体のTiと真鍮筐体のCuとが用意されています。異なるのは外装の質感だけではありません。電子部品を載せ、配線を施した心臓部の基板、いわゆるプリント基板の構造そのものが別仕様なのです。

- 黒い基板がCuのもので、紫の基板がTiのもの。赤線で囲ったところは一例ですが、基板レイアウトが異なっているのがわかります。
Tiは、配線を多層に積み重ね、信号同士の干渉を高度に抑え込む「HDI 8層基板」と呼ばれる構造を採用。一方のCuは、貫通配線で堅実に組み上げる「8層スルーホール基板」です。なぜ個別の選択をしたのか伺うと、「製品としての出発点は完全に共通していますが、同じ設計思想のもと、素材特性に合わせて基板レイアウトを最適化した結果」とのこと。
筐体に使われる金属の電磁シールド性、つまり外部からのノイズを遮る性能や、電気の流れやすさは、回路の動作環境そのものに影響し、最終的な音のキャラクターとして現れます。そうした長年の経験から導かれた選択肢というわけです。
両機に共通するのは、旭化成エレクトロニクス製の最上位DAC「AK4191EQ」を2基と「AK4499EXEQ」を4基組み合わせて使っている点です。DACとは音楽のデジタルデータをアナログ信号に変換するオーディオの心臓ともいえるチップ。EvoOneでは、この役割を「変換」と「出力」にわけ、複数のチップで並列処理する「セパレート構成」を採用しています。これにより、同じデータでもより純度の高い音として取り出せるのです。
さらにEvoOneでは、DACから出力される電流信号を受けるI/V変換段も自社開発。8チャンネル独立構成により信号を細分化して受け止め、ノイズの抑制やリニアリティやダイナミックレンジの確保を狙っています。IV変換の後段にくる「完全対称ディスクリート増幅段」へいかに正確な信号を伝えるかまでつくり込んでいる点がEvoOneらしい特長です。
そして、エンジニアの驚異的な熱量を感じるのが、それら対になって動作する素子、ひとつひとつを精密に測定し、電気的特性の揃ったものだけを同一個体内でペアリングしていること。こうした工程が歪みやノイズを抑え、左右の音像や微細なニュアンスの再現性を高める土台になっているのだろう。
【調整機能】頂点を知る人のために「好みの音色」を選ばせる

- 使いこなしの選択は多数あります。「真空管のモード選択」「NFBの有無」「ClassA/ABの選択」「出力モード」「ゲイン切り替え」これらを組み合わせて自分好みのサウンドを作り上げる楽しみがあります。
EvoOne最大の特長は、アンプの使い方を細かく調整できるところにあります。基本は真空管「Nutube 6P1」を経由するハイブリッド構成です。Nutube 6P1とはKORG社が開発した現代の小型真空管で、これに半導体のトランジスタ増幅回路を組み合わせることで、温かみと精密さを両立しました。さらに音の変化を楽しめるよう、真空管をバイパスする純半導体経路の「Fully-TR」というモードも用意しています。
そもそもEvoAriaの設計チームは、NutubeをDAPのアンプ用途に積極的に採用してきた経験を持っています。前職の時代から数えると6世代もNutubeを搭載したDAPの開発を行っていたといいます。そのため真空管特有のマイクロフォニックノイズや振動由来の雑音を抑え込むノウハウを本機に投入しています。
加えてEvoOneは、NFB(Negative Feedback)/Non-NFBの切り替えもできます。NFBとは「負帰還」と呼ばれる回路で、出力信号の一部を入力側に戻して歪みを抑える仕組みです。Non-NFBは「無帰還」と呼ばれる回路で、NFBをかけずに出力するモードです。

- NFBの有無はどちらが正解というモードではなく、聴感上、好みの方を選べばOKです。
さらに増幅回路の動作方式も、常に大電流を流し続けて歪みを極小化する贅沢な「Class A」と、効率と音質のバランスを取った「Class AB」が選択可能。「P」と「P+」、「Turbo」の3段階の出力モードと合わせ、通常は設計者が固定してしまう選択肢を敢えて選べるようにしている点がユニークです。

- ゲインの他に出力モードが選択できるのもユニーク。Turboモードは駆動力が上がりますが、トレードオフで機能制限もかかります。
【岩井氏による音質評価】モニター的に楽しむTi、細部まで調整を楽しむCu
音質については、VGP審査員でオーディオ評論家の岩井 喬氏に試してもらい、コメントをいただきました。

- 音質のチェックをしたオーディオ評論家の岩井 喬氏
「まず両機に共通する音を一言で表すと、高い解像度と正確な音場表現です。色付けはある程度なくしつつ、情報量は非常に豊富です。アンプ構成もしっかりつくり込んでいるので、高感度なイヤホンはもちろん、Sennheiserの『HD 800 S』のような300Ωもあるインピーダンスの高いヘッドホンであっても駆動できた点が好ましいです。

- 据え置きモデルとの組み合わせも考慮された入出力端子。

- Android OSを搭載しますが、ローカルファイルの再生にはHiby Playerを使用します。
そうした音をベースにしつつTiは、ニュートラルで鮮度の高いモニターサウンドです。ピアノはアタックが俊敏。輝くようなシンバルも透明度が高く、オーケストラの抑揚など、メリハリが際立ちます。一方、立ち上がりや立ち下がりが速いがゆえに楽曲によってはやや硬質に感じる瞬間もありますので、音源の情報をストレートに聴き取りたいユーザーには最適です。
Cuも極端な色付けがないのですが、Tiと比較すると幾分か柔らかく感じるので、長時間でも疲れない艶やかな表現です。真鍮筐体由来の滑らかさが乗り、低域の豊かさ、高域の響き、オーケストラの芳醇さがリッチに描かれます。アナログライクなウェットな質感があり、音楽を「聴く楽しさ」に直結する一台です。ただし各種モードの組み合わせ次第で、Cuの方が守備範囲は大きく広がりますので、使いこなしが楽しいのはCuの方です」(岩井 喬氏)。
細部まで自分で調整する項目が多いのもEvoOneの魅力です。ハイブリッドモードではさらに「Lumina」と「Velvet」という2つのモードを選択できます。
「Luminaはより輪郭感や倍音が強調される印象で、音像のフォーカスを際立たせる方向になります。高域もきらびやかさが加わってくる印象です。Velvetに変更すると、より質感の滑らかさを強調した方向の音になるので、落ち着きのある艶っぽいサウンドが好みの方はVelvetの方が楽しめますね」(岩井 喬氏)。
The Pursuit of Better Sound──終わりのない、よりいい音の追求。EvoAriaがスローガンとして掲げるこの姿勢がいま、2つの結晶となって誕生しました。
製品プロフィール
ポータブルオーディオプレーヤー
EvoAria
EvoOne Ti/EvoOne Cu
¥1,122,000(税込)
※Ti:世界199台限定、Cu:世界199台限定
※Tiは発売済み。Cuは6月末頃発売予定。
SPEC ●DAC:AK4191EQ×2+AK4499EXEQ×4 ●搭載真空管:KORG Nutube 6P1×2 ●最大対応サンプリング周波数/量子化ビット数:768 kHz/32 bit(PCM)、22.4 MHz/1 bit(DSD512) ●出力端子:4.4 mm バランス、3.5 mm アンバランス(ヘッドホン/ライン出力切替)、USB-C(USB Audio/同軸デジタル兼用)、Mini HDMI(I²S) ●出力:バランス 6.4 Vrms(200Ω時)、32 Ω時最大1,300 mW(Turboモード) ●OS:Android 13 ●SoC:Qualcomm QCS8550 ●メモリ:16 GB ●内蔵ストレージ:512 GB ●ディスプレイ:6インチFHD+(2,160×1,080) ●無線:Wi-Fi 7、Bluetooth 5.3 ●バッテリー容量:10,000 mAh/3.87 V(48.6 Wh) ●再生時間:最長約12時間 ●外形寸法:80W×154H×25Dmm(ボリュームノブ除く) ●質量:約570 g(Ti)、約727 g(Cu) ●筐体素材:航空グレードTC4チタン合金/PVD仕上げ(Ti)、高純度真鍮/ヴィンテージ仕上げ(Cu)

