最先端のポータブルオーディオを扱うブログ「Music to GO!」でもお馴染みのオーディオライター・佐々木喜洋さんが、「価格設定がバグっている!」と感じた技術的に尖ったアイテムとその理由を語り尽くす連載企画がスタート。第1回はAZLAの有線イヤホン「Trinity」に注目します。
CONTENTS
・いま売れている有線イヤホン「Trinity」とは?
・なぜ低価格なのにこうした高級感のあるサウンドが楽しめるのか?
・イヤーチップまで独自設計「SednaEarfit T」
・価格は同じ!USBと3.5mmとプラグを選べる
・製品プロフィール
いま売れている有線イヤホン「Trinity」とは?
AZLA(アズラ)「Trinity」が今売れているそうです。Trinityは実売価格が2000円前後という低価格の有線イヤホンで、USBバージョンと3.5mm端子バージョンがあります。ブラック、ブルー、シャンパンゴールドという3色のカラーバリエーションに加えて、アイドルマスターとのコラボによる限定色のフローズンミント・モデルも話題を呼びました。

- カナル型イヤホン
AZLA
Trinity
直販サイト価格¥2,200(税込)
しかし実売価格で約2200円という低価格は珍しくはありません。そもそもこの価格帯は国産大手の牙城です。なぜAZLAという外国製品が売れているのか、その人気の秘密は音がよいからです。
音がよい、というのは漠然としていますが、たとえばこの価格ではいわゆるドンシャリな音、低音がやたら大きくて高音が尖っているようなサウンドが当たり前とされています。AZLAの音の魅力は、この価格帯にしては音が整っており、高級感がある点です。
初めてイベントでTrinityの試聴をした際、3.5mm端子モデルを手持ちのDAPに接続し、他のハイエンドイヤホン用に再生していた良録音のアコースティック曲をそのまま再生しました。その曲は静かな空間にピアノや弦楽器が絡み合う複雑な曲ですが、予想外にTrinityは歪み感が少なく音が整っていて、その曲を美しくクリアに楽しむことができました。これはちょっとした驚きでした。
この価格のイヤホンで良録音のジャズトリオやクラシックの四重奏曲が楽しめてしまうものは多くありません。アニソンやロックのような音数が多く、エネルギッシュな録音の曲でも、よく整理された音でボーカルがスッと耳に届きます。
なぜ低価格なのにこうした高級感のあるサウンドが楽しめるのか?
おそらくこれを読んでいる方はAZLAと聞くと、まずイヤーチップである「SednaEarfit」を連想するのではないでしょうか。
しかしながら、AZLAは元々イヤホンメーカーであり、10年近く前にブランドと同名の「AZLA」というイヤホンの発売から始まったブランドです。これは当時5万円前後の価格でしたが、その設計はバランスド・アーマチュア型とダイナミック型の同軸ハイブリッドドライバー構成に加えて、中は開放型で外は密閉型という独自の技術を採用した革新的なものでした。

- 斬新な同軸ハイブリッド構成を採用したAZLAのデビュー作「AZLA」。
その翌年に発売した3万円台前半のイヤホンである「HORIZON」はシングルダイナミック型のモデルであり、新たに開発された「ARDドライバー」を一基搭載していました。このドライバーの特徴は、分割振動を徹底的に抑えるというものです。

- Trinityにも繋がるARDドライバーを搭載した「HORIZON」。
正しい音を出すためには、イヤホンの振動板は前後に正しく動作しなければなりません。しかし振動板はコイルのある中心から振動が端に伝搬していくため、振動板の素材の特性により、どうしても全面で均一には振動してくれません。
これは特に振動回数の多い高音域で音質低下の原因となります。振動の仕方が場所によって異なるため、これを分割された振動、つまり「分割振動」と呼びます。「ARDドライバー」ではアルミニウム振動板を二枚の樹脂層でサンドイッチするという3層構造により、この課題に対応していました。
そしてこの「ARDドライバー」を改良したものが、Trinityに搭載されている「発展型ARDドライバー」です。元は3万円台のイヤホンの技術を2000円前後のイヤホンに応用しているわけです。

- Trinityに搭載される「発展型ARDドライバー」。
もちろん相応のコストダウンはされていますが、Trinityにおいては振動板にPUとPEEKの複合材が採用されています。PUは柔らかいポリウレタン、PEEKは硬いプラスチックであり、それを複合することにより適度なバランスを取っています。硬ければしっかりと音は出ますが、硬すぎるとキンキンとした音になりやすいからです。
イヤーチップまで独自設計「SednaEarfit T」
また添付されるイヤーチップは傘部分を曲線形状にし、先端に向かって傘部が薄くなる独自のテーパードフィット構造を採用した専用開発の「SednaEarfit T」です。

- 先端に向かうほど細くなる独自形状のイヤーチップ「SednaEarfit T」を付属。
「SednaEarfit」は通常2000円前後で販売されているイヤーチップなので「2000円前後のイヤホンに3万円のイヤホンの技術が応用され、さらに2000円前後のイヤーチップが標準で添付されてくる」わけです。まるで計算が合わないようなコスト度外視の価格設定です。
つまり、これはAZLAというメーカーの戦略的な製品でもあります。最近ではAZLAといえばイヤーチップというイメージが一般的になってしまいましたが、再びイヤホン分野で存在感を示したいというメーカーの意図が見える戦略です。
5000円以下の価格帯は国産大手の牙城であり、ここに切り込むための武器が「音質」なのです。Trinity(三位一体)という名前は、装着性、音質、価格が三位一体となったものなのです。
価格は同じ!USBと3.5mmとプラグを選べる
さらにUSBモデルと3.5mmモデルの価格が同じというのも面白いところです。USBモデルはパンチのある躍動的なチューニングがされているので、ロックやゲーム音楽を楽しみたい方には最適です。またTrinityの欠点をあえて挙げると多少鳴らしにくいことですが、一体型のUSBモデルでは問題になりません。おすすめはUSBモデルです。

- USBならしっかり鳴ります。

- ゲームプレイにも使えます。
低価格でも音質重視のモデルがヒットした例として、かつてのfinal「E3000」も、ドンシャリがまかり通る低価格の市場にあえてフラット・ニュートラル基調のサウンドチューニングで殴り込み、成功したイヤホンであることを思い出しました。こうした「上質なサウンド」がきちんと低価格市場にも受け入れられているというのは、このポータブルオーディオの世界が成熟した証ではないでしょうか。
製品プロフィール
カナル型イヤホン
AZLA
Trinity
直販サイト価格¥2,200(税込)
SPEC ●型式:ダイナミック型 ●ドライバー口径:8mm ●再生周波数帯域:10〜40,000Hz ●インピーダンス:16Ω ●感度:104dB(1mW/1kHz) ●ケーブル:4芯OFCリッツケーブル(約1.2m) ●プラグ形状:3.5mm3極(L字)、USB Type-C(購入時に選択) ●質量:非公開 ●付属品:SednaEarfit Tプレミアムシリコンイヤーピース(S/MS/M/L)、キャリングポーチ
【筆者プロフィール】
佐々木喜洋
テクニカルライター/オーディオライター。得意ジャンルはポータブルオーディオ、ヘッドホン、イヤホン、PCオーディオなど。海外情報や技術的な記事を得意とする。アメリカ居住経験があり、海外との交流が広い。ソフトウエア技術者で第一種情報処理技術者の国家資格を有する。ポータブルオーディオやヘッドフォンオーディオの分野では早くから情報発信をしており、HeadFiのメンバーでもある。個人ブログ「Music To Go!」主催。
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