最先端のポータブルオーディオを扱うブログ「Music to GO!」でもお馴染みのオーディオライター・佐々木喜洋さんが、「価格設定がバグっている!」と感じた技術的に尖ったアイテムとその理由を語り尽くす連載企画。第2回はONIXのコンパクトDAP「Tocata(トッカータ)XM2」に注目します。
CONTENTS
・際立つ個性を持った、古そうに見えて新しい小型DAP「Tocata XM2」
・音質は解像度が高く、中高域の透明性とパワーある低音が魅力
・Cirrus Logic社のDACチップでも出力を加算する設計に
・DAPにもポータブルDACにもBluetoothレシーバーにもなる個性派
・製品プロフィール
際立つ個性を持った、古そうに見えて新しい小型DAP「Tocata XM2」
最近のポータブルオーディオ機器の中でも、ONIX「Tocata XM2」(以降、XM2)はひときわユニークな存在です。

- ポータブルオーディオプレーヤー
ONIX
Tocata XM2
¥OPEN(実勢価格¥64,350/税込)
XM2はハンディサイズで、四角い独特な筐体デザインが特徴的なDAPです。一見するとXM2はコンパクトで手軽さだけが売りのDAPのように見えますが、その中にいくつもの秘密が隠されています。いきなり欠点から挙げてしまいますが、いまどきAndroid非搭載です。ストリーミング時代にどうするの、といわれるかもしれません。しかし、XM2はマグネット付きのケースを装着することで、Magsafe対応スマホのUSB DACとしてスマホの背面にくっつけることができるのです。つまり「でかいスティック型DAC」のように使えます。

- XM2専用のマグネット付きケースを使ってスマホの背面に取り付けた様子。
操作面でもユニークです。XM2は四角いデザインならではの、独自の画面回転機構を持っているので、ワンタッチで画面を回転させることが可能です。これによって、スマホの背面にくっつけたときに見やすい位置で固定できます。
この「合体機構」によって、XM2のAndroid非搭載という欠点は一転して長所になります。Androidのような重いOSを採用していないので、まず動作が軽く、サクサクと動きます。タッチ操作が可能なので、操作性もとてもスムーズに感じられます。

- 画面は0度、90度、180度、270度から選べます。
そしてAndroid非搭載による軽さは、音質向上にも役立っています。多くのAndroid搭載DAPは「音質優先モード」のような不要なソフトウェアを止めるモードが用意されていますが、XM2ではそもそも、その必要がありません。つまりXM2の一番の特徴は、音がよいことに集約されます。
音質は解像度が高く、中高域の透明性とパワーある低音が魅力
音質はqdc「White Tiger」を使用して確かめました。マルチBAドライバーの高性能有線イヤホンです。XM2は3.5mm端子と4.4mmバランス端子の両方を装備しています。解像度が驚くほど高く、細かい音がよく聴き取れます。そして音の透明度が高く、とてもクリアな音が楽しめます。

- 試聴には筆者が愛用するイヤホン、qdc「White Tiger」を使用しました。
通常のバスパワー式スティックDACでは力強さが不足しがちですが、XM2はバッテリー内蔵のため余裕のあるパワー感が感じ取れます。このため低音にはしっかりとしたパンチの強さがあります。このクリアで美しい中高音域と、パワー感のある低音再現力がXM2の持ち味なのです。
もちろん単体DAPとしても使用でき、この場合にはBluetooth経由のスマホアプリ「Eddict Player」によるリモコン操作も便利です。ちなみにバッテリーは約8.5時間持続します。
Cirrus Logic社のDACチップでも出力を加算する設計に
このサイズと価格でこうした高音質が実現できるのか、という秘密は、もちろん単にAndroid非搭載というだけではありません。それには明確な技術的理由があります。XM2はDAC部分にCirrus Logic社の最新チップCS4308Pを搭載しています。このDACは8ch出力を持つ先進的なチップです。8ch出力を備えているので、フルバランスに必要な4ch(R+/R-、L+/L-)を満たしてさらに余ります。つまりそれぞれをさらにデュアルDAC相当として運用できます。これによりSN比を大幅に向上させています。こうした出力加算の設計はこれまでESS社製のDACに多く見られましたが、ついにCirrus Logic社でも可能となったわけです。

- DACにはCirrus Logic社の「CS4308P」を搭載します。
さらにDAC後段のI/V変換回路には、定評のある低ノイズ特性に優れたオペアンプOPA1612を2基採用。アンプ回路にはSGM8262-2オペアンプを2基採用しています。OPA1612とSGM8262-2はいずれも1チップに2回路を内蔵したデュアル構成のため、2基でフルバランス4ch構成を実現しています。つまりXM2は小型ながらDACからアンプまでフルバランス構成を採用しており、低ノイズかつ高い駆動力を備えたSGM8262-2によって、高感度マルチBAイヤホンでもノイズが少なく、低インピーダンスイヤホンでも安定した駆動性能を発揮します。

- DACから出力される微小な電流を、電圧に変換するI/V変換回路に、定評あるオペアンプ「OPA1612」を採用しています。
DAPにもポータブルDACにもBluetoothレシーバーにもなる個性派
また、XM2は最大800mWという高い出力性能を実現しています。これは、このサイズにしてはかなり高いパワーを有しているといえます。これによりヘッドホンでも十分に鳴らせます。つまりXM2はコンパクトなのに低インピーダンスイヤホンも、フルサイズヘッドホンも余裕で鳴らすことができるというわけです。
これはONIXが、最新DACを採用するとともに、Shanlingと連携しながら積み上げてきた技術が結実した製品といえます。XM2の面白さは、このサイズからは想像できないほど本気で音質を追い込んでいることです。Androidをあえて搭載せず、DACやアンプ回路にリソースを投入、8ch DACによる出力加算やフルバランス構成によって、小型サイズとは思えないほどの高解像力と駆動力を実現しています。さらにBluetoothの送信と受信の両方の機能も搭載しています。Android非搭載でありながら、今あったら便利な機能を備えています。音質重視の小型DAPを探している方にとって、非常に魅力的な選択肢となるでしょう。

- Bluetoothは送信も受信もLDAC、aptXHD、aptX、AAC、SBCに対応しています。
製品プロフィール
ポータブルオーディオプレーヤー
ONIX
Tocata XM2
¥OPEN(実勢価格¥64,350/税込)
SPEC ●CPU:Ingenic X2000 ●DAC:Cirrus Logic CS4308P(8ch) ●最大対応サンプリング周波数/量子化ビット数:768kHz/32bit(PCM)、DSD512 ●出力端子:3.5mmシングルエンド、4.4mmバランス ●出力:3.5mm Low Gain 1.28Vrms(51mW/32Ω)、High Gain 2.56Vrms(204mW/32Ω)/4.4mm Low Gain 2.54Vrms(200mW/32Ω)、High Gain 5.08Vrms(800mW/32Ω) ●THD+N:0.0005%(32Ω、A特性、1.5Vrms High Gain) ●S/N比:121dB(3.5mm)、124dB(4.4mm) ●外部ストレージ:最大2TB(NTFS/FAT32/exFAT) ●ディスプレイ:3.0インチタッチスクリーン(720×720) ●Bluetooth:Ver.5.2(送受信:LDAC、aptX HD、aptX、AAC、SBC) ●無線LAN:Wi-Fi対応(AirPlay、DLNA) ●バッテリー容量:3,000mAh ●連続再生時間:約8.5時間 ●急速充電:PD 12W対応 ●外形寸法:65W×82H×18Dmm ●質量:約140g
【筆者プロフィール】
佐々木喜洋
テクニカルライター/オーディオライター。得意ジャンルはポータブルオーディオ、ヘッドホン、イヤホン、PCオーディオなど。海外情報や技術的な記事を得意とする。アメリカ居住経験があり、海外との交流が広い。ソフトウエア技術者で第一種情報処理技術者の国家資格を有する。ポータブルオーディオやヘッドフォンオーディオの分野では早くから情報発信をしており、HeadFiのメンバーでもある。個人ブログ「Music To Go!」主催。
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