登場が待ち遠しい! 水月雨/MOONDROP静電型ヘッドホン「月零MOONZERO」
第20回『深圳国際オーディオショウ(SIAS2026)』で、とりわけ高い注目を集めていたのが水月雨/MOONDROPの製品発表会です。そのプレゼンテーションの最後に発表され、大きな歓声が沸いたのが、ブランド初となる静電型(コンデンサー型)ヘッドホン「月零MOONZERO」でした。
開発におよそ7年の歳月をかけたという渾身のアイテムですが、歓声の理由は2999元(約8万円)という驚きの価格にありました。実はこの前日、水月雨の東莞ラボへ取材に訪れていましたが、その帰りに翌日MOONZEROが発表されることを知ります。何より驚いたのはその価格の安さであり、“表記が一桁違うのではないか”と水月雨スタッフに再確認したほどでした。
水月雨の鄭社長は学生時代、スタックス「SR-009」に憧れ、食費を削ってHeadAmp Audio Electronicsのハイエンドアンプ「Blue Hawaii Special Edition」を購入するほど、コンデンサー型に惚れ込んでいたといいます。水月雨のコンデンサー型ヘッドホンは開発初期の段階で良い音が出ていたそうですが、振動膜をたわみなく張り込む自動膜貼り装置なども自作しましたが、うまくいかず、加えて水月雨の製品群の特徴である、手にしやすいリーズナブルな価格帯を実現するための量産化への挑戦も非常に厳しい状況であったそうです。
しかし鄭社長は諦めず、研究を重ね、振動膜の貼り込みに高圧エアーを使う装置を開発しました。クリーンルームの準備も含め、量産化への目途をつけたといい、その完成間近のチューニング仕様を昨年のSIASで参考出品しました。ボーカルとオーケストラ、それぞれにチューニングを合わせた2つの仕様を置き、来場者の反応を窺っていましたが、その成果を踏まえ、本年ようやく完成に至ったのです。
新開発「Golden Cicada Wing(金色蝉翼)」真円振動板を搭載
まずはMOONZEROの概要を見ていきましょう。心臓部のドライバーユニットは112mm口径で、その中央に配置された振動膜には1.2μm厚の極薄エンプラフィルムを用いた「Golden Cicada Wing(金色蝉翼)」真円振動板(振動膜そのものの口径は80~90mmほどとのこと)を採用しています。温度や湿度の変化に強く、荷電分布も非常に安定しているといいます。

その振動膜の前後には音波を通す丸孔を施した金メッキの固定電極を配置しています。振動膜との距離はそれぞれ0.6mmであるといいます。ハウジングの外側には二重構造の特殊メッシュを取り入れ、音の反射を極限まで抑えつつ、ドライバーユニットの保護に繋げています。

ヘッドバンド構造やパーツには、「DARKSIDE」や「SKYLAND」と同じ最高級ドライカーボンファイバー製ヘッドバンドと3Dプリント構造によるヘッドパッドを採用しています。イヤパッドにはラムスキンと通気性ファブリックを組み合わせたハイブリッド構造で装着性も追求しています。ケーブルは着脱できませんが、静電容量を考慮した平行線構造で、プラグには5ピン仕様を取り入れています。

静電型ヘッドホンの新星「MOONZERO」、期待のサウンドの第一印象は?
MOONZEROは水月雨のブースの中でもドア付きの試聴室内に置かれており、試聴機材にはDAC/プリにSMSL「VMV D3R」、アンプにMSBテクノロジー「Electrostatic Headphone Amplifier」(日本では400万円超)による超ハイエンドな環境を構築しています。なお、MOONZERO専用アンプについては水月雨でもMOONZERO本体と同じくらいの価格帯で開発中とのことです。その理想的なセットの登場が今から待ち遠しいです。

この試聴環境にAstell&Kern「SP3000」を繋いで聴いてみましたが、再生環境の素晴らしさも相まって、音場の緻密さとハーモニーの濃厚さ、そして音像における解像度の高さは申し分なく、流麗で爽快なサウンドを実感できました。オーケストラの弱音パートも優しくクリアに引き立たせ、コンデンサー型らしい繊細でヌケの良い表現も味わえます。管弦楽器の旋律は潤い良く艶やかで、分解能も高く、余韻にも音の詰まりを感じない、実に爽やかなサウンドです。ローエンドも太く伸びやかですが、滲みなく適度な弾力があり、音場の見通しも深いです。ボーカルは有機的で艶良くウェットな描写であり、ボディ感も自然です。ピアノやシンバルの響きは深みがあり、高域にかけて音離れよく透明度が高いです。S/N良く、立ち上がり/立ち下がりのスムーズさも申し分なく、上質な表現に溢れています。
昨年の試作モデルよりも精細感やバランスが向上しているようで、低価格なコンデンサー型ヘッドホンであることを忘れるほどの躍動的で豊かな表情を見せてくれました。専用アンプを含めて20万円弱で展開されるのであれば、コンデンサー型の新勢力として、大きな存在感を放つことでしょう。僅かな時間の試聴でしたが、そのサウンドクオリティの高さ、可能性を存分に感じることができました。
平面磁界駆動型ヘッドホン「月之暗面DARKSIDE」も聴き逃せない!

- 水月雨/MOONDROPの平面磁界駆動型ヘッドホン「月之暗面DARKSIDE」。予定価格は19,999元(およそ480,000円弱)
そしてMOONZEROとともに注目されていたのが、創業10周年を記念したコンセプトモデルとして、昨年発表された平面磁界駆動型ヘッドホン「月之暗面DARKSIDE」です。SIAS2026発表会冒頭でもいよいよ発売されることが紹介されていましたが、象徴的なコンセプトモデルという存在から、事実上の新たなフラグシップへと進化しているようで、問題のあったガラスPCBの刷新や、サウンドチューニングを改めたといいます。

- DARKSIDEは厚さ500ナノメートルの超薄型振動板・純金駆動回路を搭載しています
この新生DARKSIDEについても、少しの時間聴くことができたので、その音の印象についても触れておきたいと思います。DARKSIDEは、500nmという薄いポリイミドフィルムへ純金薄膜を全面に貼り込み、レーザーエッチングでボイスコイルパターンを刻んだ10cm・FDT平面磁界全面駆動型ドライバーを搭載しています。振動板を支えるフレームはガラスからセラミックに変更し、機械的負荷がかからないようフレキシブルPCBとソケットを併用することで強度を高めました。


このフレーム材と保持機構の変更により音の調整にも時間がかかったそうですが、新生DARKSIDEは、MOONZEROに負けず劣らず、音離れのよいウェットで伸びやかなサウンドです。弦楽器やボーカルはウェットな艶があり、ボディも自然な厚みを持つ、耳当たりのよい傾向で、ピアノやシンバルは涼やかに響きます。オーケストラの分離もよく、旋律の潤いや、ハーモニーの密度も十分に保ったリッチな音が展開します。低域の伸びも深く、ウッドベースの胴鳴りは柔らかくしなやかに踊ります。MOONZEROよりは低域のエネルギーが高めで、ゴージャスなサウンド傾向を持つ印象です。19999元(約40万円台)という水月雨としては別格のハイプライスな製品となりますが、象徴的存在、ブランドのサウンドフィロソフィーを知らしめるヘッドホンとして、その名が刻まれることでしょう。
- ヘッドバンドに高級時計やレーシングカーに使う「多層複合炭素繊維フレーム」を使用、3Dプリント構造によるヘッドパッドを採用するなど、装着性にもこだわっている
SIAS2026での発表会の締めの言葉として、鄭社長は「水月雨は“夢を追うブランド”です。自分が夢見たものを形にすること、そしてユーザーの皆様が理想の音や体験を追い求めること。それこそが私たちの存在理由であり、ブランドの根本です。MOONZEROは私の“原点と夢”そのものです」と熱い思いを語りました。水月雨のどの製品にも、そのフィロソフィが流れていますが、MOONZEROとDARKSIDEは特にその色が強く表れています。夢が現実となった素晴らしい音体験の先に、水月雨が目指す次なるステージ、目標とするサウンドを実感できることでしょう。

- SIAS2026会場で鄭社長(中央)と今後の新製品について意見を交わす筆者
「水月雨 試聴発表会2026」、東京で9月5日に開催!
そしてなんと、今週末2026年9月5日(土)に日本で開催予定のイベント「水月雨 試聴発表会2026」にて、このMOONZEROも聴くことができるかもしれないとのこと。入場無料、登録不要ということですので、ブランドの新時代を担うサウンドが気になる方は、ぜひとも会場へ足を運んでみてください。
「水月雨 試聴発表会2026」
日時:9月5日(土) 11:00〜16:00(最終入場 15:30)
会場:ステーションコンファレンス東京 5F 502・503A
https://www.tstc.jp/tokyo/access.html
参加:入場無料・予約不要
