USound社製のMEMSドライバーを完全ワイヤレスイヤホンとして初めて採用したQCY「MeloBuds N70」。1万円を切る低価格ながら、ダイナミック型とMEMSのハイブリッド構成。ワイドレンジ再生で音圧も取れることからANC機能の搭載も容易でありつつ、MEMSらしい緻密で繊細なサウンドを楽しむことができる、マニア必聴の「隠れた名機」です。本機の魅力をオーディオライターの佐々木さんが解説してくれました。
ダイナミック型と一体のハイブリッド型を搭載
QCYは中国のブランドで、数千円の低価格帯で機能豊富な点で人気を集めています。ここで取り上げるQCY「MeloBuds N70」(以下N70)はすでに現在販売されているハイグレードモデルです。ハイグレードといっても日本円で1万円を切る価格なので手に入れやすいです。N70の特長は高音質化のために「MEMSドライバー」を搭載した点だ。そして隠れたポイントはこれがUSound社のMEMSドライバーユニットが初めて完全ワイヤレスイヤホンに搭載されたということです。
MEMSドライバーはMEMSスピーカー技術を応用した最新鋭の「シリコンドライバー」として最近採用例が増えているが、そのほとんどはxMEMS社のユニットを採用しています。しかし業界にはもうひとつ、MEMSスピーカーのサプライヤーであるUSound社が存在します。N70は完全ワイヤレスイヤホンとしては初めてUSound社のMEMSドライバーを搭載した点がポイントです。N70はカタログではMEMSドライバーとダイナミックドライバーのハイブリッド形式とされているが、その実体は「Greip」というUSound社の一体型ドライバーです。来日したUSoundの開発者にGreipについて話を聴いてみました。
- 2014年創業のUSound社は、MEMSスピーカー市場への参入が比較的早く、補聴器やMRI音響機器分野で実績を積み重ねてきました。今回は来日したUSound社の販売部門代表であるAntonio Di Rosso氏に説明を受けました。
「USound社のMEMSスピーカーも基本的にはxMEMS社のMEMSスピーカーと同じ動作原理です」と、開発者は語ってくれました。シリコンウエハーから切り出してICチップのように製造する点も同じようです。
「USound社のMEMSスピーカーにおいては電圧により稼働するピエゾ素子の部分は突起状になっており、これが振動板を押すことによって音を発します。これにより実際に空気を振動させる部分の面積を広く取ることができるのです」。
つまりxMEMS社のMEMSスピーカーで音を発生するのは電圧により実際に稼働する板状の部分ですが、USoundではBAドライバーのように振動板は別のユニットになっています。xMEMSは高剛性な構造で超高域に優れるものの、USoundはより低い周波数帯まで音圧を稼げるのが強みといえそうです。
USoundのMEMSスピーカーは産業分野では広く使われていますが、コンシューマーオーディオ分野での採用例はまだ少ない。そこでUSound社が開発したのが簡単に完全ワイヤレスイヤホンに導入できる一体型設計の「Greip」と「Gemini」です。N70ではより小型のGreipを搭載していますが、その中身は「Conamara」という超小型の円形MEMSスピーカーと専用設計されたダイナミック・ドライバーが一体化したユニットです。ダイナミック・ドライバーはMEMSスピーカーに適合するようドーナツ形状として独自設計され、低音応答を強化して十分な音圧レベルを達成しているので、Greipはアクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)と組み合わせられます。
Greipの特長はクロスオーバーが4kHz付近に設定されているということです。最近のMEMSドライバーを組み込んだハイブリッド型のTWSは10kHz付近にクロスオーバーを設定するものが多いですが、それに対して4kHzは中高音域の境界付近に位置する周波数帯です。これはUSound社のユニットならではなのでしょう。またGreipにはMEMSスピーカーに必須の昇圧アンプが内蔵されていてイヤホン開発のスピードを早めることができます。
ドライバー以外のN70の特徴としては多機能であることです。ANCが搭載され、状況に応じて効き目を可変するアダプティブANC機能も採用されています。また高音質コーデックLDACに対応、マルチポイント接続も可能で、日本語対応された専用アプリも用意されています。
高域再生に澱みのない洗練された爽快な音
音は一聴すると派手めのチューニングですが、聴き込むにつれて低域が引き締まっていて、高域に澱みが少ない洗練された音だということがわかります。ボーカルは非常に鮮明で、Shantiのような女性シンガーの息遣いや声質がリアルに伝わってきます。シンバルやハイハットの音は極めてシャープで、歪みが少なくスッキリと伸びていきます。Von Hansen Mortal Coilの『Grawlix』で聴けるベルや打鍵楽器の音は、その透明感と立ち上がりの速さが見事です。これはUSound製MEMSドライバーの恩恵が大きいのでしょう。
QCY MeloBuds N70は、やや誇張気味の低音再生ではあるものの、より高価格帯の機種と比べてもかなり秀でていると感じました。低価格でもこれだけ高い性能が発揮できるのはMEMSスピーカー搭載のおかげといえるでしょう。MEMSドライバーという新技術が、ついにこの価格帯にまで浸透してきました。N70は完全ワイヤレスイヤホンの音質進化の新たなフェーズを告げるモデルといえます。
USoundのMEMSはココがすごい!
このグラフはUSound社のGreipユニットにおける1mW入力時の全高調波歪(THD)特性を示しています。4kHz前後を境に、低域を専用設計のダイナミック型、高域をUSound製MEMSスピーカー(Conamara)が受け持つハイブリッド構成です。5kHz付近に見られるピークはカプラー固有の共振に起因するもので、ユニットの欠点ではありません。これを除けば高音域は非常に滑らかで、MEMSならではの低歪み特性を示しています。BAドライバーのように機械的共振ピークが現れやすい構造とは対照的です。一方、低域では最大でも約0.5%以下と、ダイナミックドライバーとしても非常に低歪み。ハイブリッド構造の最適化によって得られた優れた結果といえるでしょう。
2種のドライバーをタンデムマウントしており、耳に近い方がMEMSドライバーでその背面に10mmのリング状ダイナミックドライバーが配置されています。また、N70のフロントチャンバー部に独自の音響ガイドを備え、2つのドライバーから発せられる音の伝播経路を分離。純度の高いサウンドを届ける設計を採用します。
製品プロフィール
完全ワイヤレスイヤホン
QCY
MeloBuds N70
¥OPEN(実勢価格¥9,980前後)
SPEC ●通信方式:Bluetooth Ver.6.0 ●対応コーデック:SBC、AAC、LDAC ●ドライバー:10mm(ダイナミック型)+MEMS ●連続再生時間:約7時間(ANC ON時、ケース込み35時間) ●質量:約5.3g(片耳)、約38.5g(ケース部) ●付属品:イヤーチップ(XS/S/M/L/XL)、充電用USB Type-Cケーブル


